ハセツネ2018参戦記 その②
浅間峠からの登り斜面で、沢山のギャラリーに「頑張れ!」「 絶対帰ってこいよ!」と励まして貰う。
夜の18時に車道から1. 5時間程上がった山の中でわざわざ応援してくれている人達。 この暑さの中で第二関門に向かう厳しさを熟知しているのだろう。 声援が温かい。
浅間峠の喧噪から離れると、また静かな暗闇の世界になる。 前方にポツポツと選手のライトが見えるが、 浅間峠前までより格段に数が減っている。 リタイアした人多いんだろうか。引き返してくる人達もいる。 ちょっと進んでやっぱり諦めたんだろう。 去年の自分も浅間峠から2Km位進んだところで呆然と立ち尽くし 、前に進める選択肢がどう考えても見出せずに引き返した。 今年は違う。ゴクゴク飲めないとは言え、 根性出せば飲み込める水分はたっぷりある。 手にはポールだってある。練習だって十分してきた。 やめたいと思う気持ちはあるが、やめる理由はない。 とにかく第二関門の月夜見第二駐車場に制限時間のAM4: 00迄に着こう。そこで水を1.5L貰うんだ。 その先のことはそこで考える。
ポールを使い始めたが、 手に力が入らずそれほど楽にはなっていない。 結局醍醐丸からジェルを半分飲んだだけで浅間峠でも何も食べられ なかった。カロリーが不足しているのだろう。 でもどうしても気持ち悪くてジェルを入れる気持ちになれない。 ポカリを無理矢理飲むのでいっぱいいっぱい。今、 レース終了から2日経ってこれを書いているが、 ポカリがまずいと感じた感覚は既に分からなくなっている。 今飲んだら普通においしく飲めそうなのだが、 あの時はとにかく毒液のようにまずく感じてしまい、 真水をもっともってこなかった自分が恨めしくて仕方がなかった。
急登を登る。どこを登ってるのかよく分からない。 右側にチラチラと夜景が見える。 今は北に向かっている筈なので東京の夜景なのだろう。 特に何か思うことも無く、一歩一歩前に進むことに専念する。 フラフラ進んでいる人に追い付く。 5Km地点くらいで前にいた人だ。 知らない人だが有名な団体に所属しているっぽくて着ているTシャ ツ見たギャラリーから声援を受けていた。 仲間と大きな声でトレラン談義をしていて「速い人なんだなぁ」 って思っていたのだが、途中で「そろそろ行きますか!」 と仲間と一緒にグイグイ前に行ってしまった人だった。 今は完全に潰れている。「頑張りましょう」と声をかけて抜く。 こんな人でも潰れるんだ。 ギリギリの状態で進んでいるのは自分だけじゃない。「 気持ち悪ささえなければ」とか「本当はもっとイケるのに」 とかネガティブに考えるのはやめよう。 泣きごとを言っても誰かが助けてくれる訳でもない。 気持ちを強く持とう。大丈夫だ。出来る。 前後に人がいなくなると、小声で「頑張れ。頑張れ」 と呟きながら登った。ポジティブに声を出すのはいい。 内外から励まされる感じがする。
30Km地点の西原峠に着いた。 暗がりで15人くらい休んでいる。自分も腰をおろす。 さぁここからハセツネ最高峰、三頭山への急登が始まる。 浅間峠からここまで何も食べてない。 ポカリは無理矢理飲み続けて1Lを飲み切った。残りの水分は、 真水が300ml、OS-1が1L、コーラが300ml。 恐々とコーラを飲んでみる。クソまずいが飲めた。全部飲む。 OS-1は飲めるか? ポカリより更にまずく感じるが無理すれば飲み込める。 ジェルはどうだ? 持参のジェルで一番おいしいMagOnを飲んでみる。 吐きそうにまずい。強烈に気持ち悪くなるが、 無理矢理全部飲み込んで吐かないようにじっと我慢する。よし、 こらえた。補給はできたぞ。さぁ行くぜ三頭山。 亀の歩みしかできないけれど、 一歩一歩足を前に出し続ければいつかは着くはずだ。 三頭山を越えたら激下りで鞘口峠、 そこから月夜見山を越えると第二関門の月夜見第二駐車場だ! …ってめっちゃ遠くてゲンナリする。まずは三頭山三頭山。
急登に入ると、数十メートル間隔で選手がぶっ倒れている。 ライトつけたまま寝てる人、体育座りで全く動かない人。 異様な光景だ。 ゆっくりゆっくり登ってきたが身体に熱がこもって気持ち悪くてど うしようもなくなる。 スペースを見つけてザックを放り投げてそれを枕に自分も寝る。 身体の下が痛いのでまさぐると栗の上だった。 払いのけて目をつぶる。虫がごそごそ足から這い上がってくる。 見もしないで払いのける。 登ってくる選手が一瞬こっちにライトを向けてくるのが眩しい。 放っておいてくれ!と思ってると寝てしまったようだ。 寒くなって起きる。寒い? スタートして既に8時間以上経過しているが初めての感覚! 身体がスッキリして気持ち悪さが和らいでいる。そうか、 この気持ち悪さは身体の火照りからきてるのか。 よし体温を上げないようにしようと、 またザック担いで登り始める。 10分もしないうちに身体がまた熱くなる。 ベンチがあったので座る。 隣に座ってた人が出発したのでベンチに横になってまた寝る。 寒くなって起きる。また登る。 GPS時計が1Kmの通過LAPを告げる。1時間5分! これゴールできんのか…?
こんな感じで何とか三頭山手前の避難小屋到着。 スタッフが6人くらい居て大声で励ましてくれている。 夜10時だというのに本当にありがたい。試走の時に、 万が一この小屋にお世話になるかもと小屋の中を確認しておいた。 でも小屋の中はゾンビの群れだろうし、 そういう雰囲気に飲み込まれたくなくて、 スタッフが応援しているそばで座り込む。 ここから三頭山山頂まではほんの数百メートルで10分程度と分か っているのに長々と休んでしまう。意を決して立ち上がり登り始める。 今度は三頭山山頂からスタッフの大声が聞こえる。「 ここが三頭山山頂!中間地点!ハセツネ最高峰!頑張れ!」 ありがたい。でもゾンビの群れの反応が鈍いらしく「おーい。 みんな聞こえてますかー?」とか言ってくる。「聞こえてるぞ! ちょっと待ってて!」と返事する。山頂到着。 元気なスタッフとグータッチ。空いてるベンチにまたも座り込む。 スタートから9時間半かかった。 ここまでの時間の倍がゴールタイムになると聞く。 19時間かかるということか。その程度で済めばいいが…。 隣のオッサンが「辛いなぁ」と声かけてくる。 ネガティブな言葉を発したくなくて「へへへ」と変な笑いを返す。 「50歳過ぎて俺はなんでこんなことしてるんだろうなぁ。 さぁ行くぞ!」とオッサン出発。 何となく励まされて自分も重い腰を上げて出発。 鞘口峠までは激下りだ。
自然と7-8人の集団走になる。 これに付いていくと身体が火照ってキツいのだが、 ダラダラしていても先が見えないので頑張ってついていく。 わずか2Km弱なのに傾斜がキツすぎて進まない。 30分くらい悪戦苦闘してなんとか鞘口峠到着。 4人位の女性スタッフがここでも元気に応援してくれている。 ここから徒歩10分で都民の森駐車場なのでリタイアしやすいポイ ント。まっすぐ行くのがコース、右に曲がるとリタイア。 自分は左の窪地に5mほど降りてザックを放り投げてまた寝る。 リタイア申告する選手の声を聞きながらウトウトする。 寒くなって起きる。 ザックとポールを拾って立ちあがりコースに向かって進もうとする と、スタッフが「行くんですね?良かった!」と声をかけてくれる。 無言でぶっ倒れてたので心配させてしまってたらしい。 申し訳ない。 ここからの急登を登り始めてハイドレの水を吸うとズズっと嫌な音 。ついに真水が切れた…。残りの水分はOS-1が500ml。 補給地点まではあと4Km。試走では40-50分で行ったが、 サブスリー目前男Kさんのイケメンなペースに引っ張られてのこと 。今の状態なら1時間半はかかるだろう。OS- 1単独では飲む気がしないので、 これから1時間半は水無しの刑だ。もうトレランというより、 喉の渇きと気持ち悪さを我慢する大会みたいだ。 こんなこと続けて意味あるのか? やめちゃってもいいんじゃないのか?出発する時嫁さんに「 無理しないでね」と言われて「無理はするよ。無茶はしないけど」 と答えてきたが、いい加減無茶の領域に入ってないか? と思いながらトボトボ歩く。 途中ちょっと舗装道路に出ると誘導スタッフが「 星がきれいですよ」と言ってくる。 もう喉が渇いて生と死の分岐点みたいな状態なのに、ここで星か? と思わず声を出して笑ってしまった。 空を見ると確かに星がきれいだった。ありがとう。そうだよね。 やっぱり上向いて行かなきゃね。
スタートから11時間20分。AM0:20。 ついに42Km地点、第二関門の月夜見第二駐車場に到着。 生き延びた。8時間以上恋い焦がれた1.5Lの水が、俺の水が、 出場料1万5千円払ってコース上で唯一貰える水が、 ようやく手に入る!
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