富士登山競走 五合目コース2017

富士登山競走の存在は昔から知っていた。市民ランナーグランドスラムというのがあり、フルマラソン3時間切り、100Kmマラソン10時間切り、富士登山競走完走の3つを達成すること。他の2つのレベルの高さから自分が挑戦してよい領域を完全に逸脱しているとは思っていたが、色々調べると登りの強い人ならフルマラソン3時間半程度の走力でも完走例はあるらしい(但し登りや高度に弱い人はサブスリーランナーでも完走は難しいらしいが)。試してみたいな…という気持ちになった。距離21Km、高度差3000m、日本中のガチランナーを集めても完走率50%程度。どんな世界なんだろう?

 

山頂コースは、まず五合目コースに出場して一定の成績を挙げないと出場権利が得られない。山頂コース挑戦は最短でも1年かかる。今の実力がうんぬんかんぬんとか言う前にとにかくまずは五合目コースに出ることが最優先。2015年に申し込んでみた。ところが、インターネットで先着順に申し込みするのだが大人気すぎて全く申し込めない。申し込み開始5分前から家中の電子機器をかき集めてスタンバイしているにもかかわらず2015年、2016年と申し込み画面に到達した時には既に五合目コースは締め切られていた。五合目コースは参加人数が1500名で資格のない人が殺到する。山頂コースは2500人で有資格者だけの申し込みなので、まだ比較的取りやすい。爺さんになる前にとにかく五合目に出なければと焦る。そして2017年についに申し込むことができた。

 

五合目コースは、山頂コースと同じコースを走る。標高770mの富士吉田市役所をスタートし、ロードを10.5Km走って標高1450mの馬返し、そこから先は5Kmの登山道を一合目から順に上がっていき、標高2250mの五合目まで合計約1500mを登る。最初のロードで既に箱根駅伝の山登り区間である5区より傾斜がキツいのだが、先へ行けば行くほど傾斜は増す。

これを2時間20分以内で登ると3年間の山頂コース挑戦権が貰える。しかし山頂コースの五合目関門はもっと厳しく2時間15分である。そして更に山頂コースは実績順にゼッケンが異なり速い人から順に前に並ぶことができるのだがBゼッケンは2時間10分切りで貰えると言われている。山頂コースの完走率はBゼッケンで50%程度、その下のCゼッケンになると13%まで下がる。Bゼッケンくらいは取っておかなきゃな…と思う。前年にTV番組「ランスマ」で出場したハブくんという芸人が2時間5分で登っていた。彼は当時フルマラソンで3時間半を切っていない。俺の方が速い。なのでまぁ目標はそこら辺かな?と安易に考えていた。後々、ハブくんが異常に登りに強いことを思い知らされるのだが…。

 

2017年7月28日(金)8:30 五合目コーススタート。

実はこの3日前に発熱してしまい2日前は会社を休んだ。38℃を超える熱だった。前日は熱が下がり出社したものの完全に病人で前日までは出走を諦めていた。だが当日朝4時に起きると風邪の症状はない。調子は走ってみないと分からないけど行くしかない、また3年待つのはごめんだ!と急いで準備して現地へ。

 

走り始めた。暑い。調子は…悪い。当然だ。スタートして500mは平坦。左折すると富士山がドーンと見える。ここからはずーっとゴールまで登りっぱなしだ。試走していないのでコースがよく分からないがとにかく登る。富士吉田の市街地を抜けて3Km地点の富士浅間神社を越えると延々と続く登りの一本道が見渡せる。萎える。地面は水玉模様になっている。前を走るランナー達の汗だ。すげぇ。7Km地点の中の茶屋給水所到着は42分。ハブくんと同じくらいの筈。まずまずだ。暑くて喉が渇いている。アクエリアス2杯を一気飲みして先へ進むが傾斜が一気に急になる。まずい。全然走れない…。ここまで周囲のペースと似たような感じで走っていたのだがここから一気に抜かれ始める。まずい。

 

富士登山競走の格言の一つに「馬返しまでは走れ」というのがある。10.5Kmの馬返しまでは走らないと間に合わないのと、そこまでも走れない奴には完走できないという両方の意味があるのだろう。でも俺、9Km地点でついに歩く。こんな激坂走れるかよ!周りの人達はほとんど走っている。レベルが違うのか俺の体調が悪いのか…。

 

馬返し到着 1時間12分。遅い…。

確かハブくんは1時間5分位で通過してた筈。あんだけ盛大に歩けば当たり前だ。残り4Kmの看板があった。4Kmで800mUPか。これまでのトレランの経験だとキロ15分ペースで1時間位かな?とザックリ計算する。Bゼッケンは難しいが今日の体調だと高望みをする必要はない。2時間20分切りさえすれば良い。GPS時計でペースを確認しながらキロ15分ペースを外さないように進む。時々走って抜いていく人がいる。すげーな、こんな登山道走れるのかと驚く。でも気にしない。今日はこのペースで十分だ。周囲はゼーハー言いながら登っているが自分はほとんど息切れしていない。だからと言って余裕がある訳ではなくこれ以上ペースは上げられない。もう疲労困憊だ。

 

キロ15分を守り切り4Km進んだ。時間は2時間12分。疲れた。さぁゴールはどこじゃ?と思っていると応援の人が「あと500m!頑張れ!」と叫んでいる。「はぁぁぁ?ホントに500もあんの?」と聞き返すと「あります。制限時間ギリギリです。頑張れ!」と返事。俺は今キロ15分で進んでいる。500m進むのに7分半かかる。今の時間は2時間12分。ゴール予想時間2時間19分30秒。応援の人も正確に距離を測っている訳ではないだろう。600mあったらアウトだ。極めてまずい状態に陥っていたことに初めて気づく。慌てて走る。呼吸がゼーハーする。走り続けられない。登りはキツいし疲れているし標高も2000mを超えており酸素も薄い。ペースが上がらない。まずい。まずいまずいまずい。また3年かけて五合目コースを走るのなんて絶対に嫌だ。くそっくそくそくそ。身体動けよ!

 

周囲からも緊迫感が出てきた。みんな焦っている。誰かが「頑張ろうぜ!」と叫ぶ。「おおう!」と周囲が叫ぶ。また誰かが「来年山頂行こうぜ!」と叫ぶ。俺も「おう!絶対行くぞ!」と叫びながら進む。同じ目標に向かう人達との同調というか連帯感が半端ない。こんな大会は初めてだ。舗装道路に出た。確かゴールは舗装道路なのでいよいよかと思ったら、また登山道に入る。マジでまずい。ゴールはどこなんだよ?あの馬返しの「残り4Km」の看板は大嘘じゃねーか、ちくしょー。呼吸はゼーゼーを通り越してヒューヒュー言い始めているが走らなきゃ間に合わない。あと3分しかない。必死に走る。

 

また舗装道路に出た。応援の人が沢山いる。みんな「まだ間に合うぞ。急げ!走れ!」と叫んでいる。ただ霧が深くて30m先も見えない。応援の人に「ゴールどこ!?」と叫ぶと「霧の向こう!頑張れ!」と返事。そりゃ霧の向こうだろ、あと何メートルなんだよ!と思うが、あと何メートルだろうと走るしかない。激坂の舗装道路を必死にもがき走るとゴールゲートがいきなりあらわれ転がるようにゴールした。2時間18分を少し過ぎたところだった。あぶなかった。また五合目コースに出なくて済んでホッとした。そして体調悪いとは言え、ここまでギリギリの勝負になってしまう制限時間のキツさにビビった。ゴールゲート脇で酸欠状態でひっくり返っていると何人もの係の人が「大丈夫ですか?」と心配してくれるので申し訳なくて、ゼーゼー言いながら移動した。五合目ターミナルからバスに乗って帰るのだが、ターミナルまで地味に遠くて疲れた体にはシンドかった。こんなに歩かせないでくれよ!と思った。でも山頂コースはこれより速く走って更に山頂まで行かなければならない。絶対無理じゃね?と来年のことを考えて途方に暮れた。