富士登山競走 山頂コース2018本番

2018.7.27 富士登山競走当日 5:50頃会場入り。

速そうなランナーがゴロゴロいる。短髪・日焼け・脂肪無しの三点セット。走らなくても分かる。絶対にあんたには勝てん。案の定Aゼッケン。体型からゼッケンを当てる遊びをしばらくしてたが虚しくなってきてやめる。速い人見てビビっても仕方がないし、空元気で気合注入しても疲れるだけだ。ボケーっとしよう。どんだけたるんでいてもエイエイオーでスイッチ入るだろう。

6:30スタートライン開放。Cブロックの先頭から4列目くらいに位置付ける。最後尾より20秒くらい早くスタートできる筈。20秒が効くことは大いにあり得る。後悔の芽は全て摘むんだ。

Cブロックの山頂到達率は過去実績では13%程度。8人に1人だ。周囲のランナーはキッチリ仕上げてきている様子の人ばかり。その辺のマラソン大会ですら上位13%に入るのはキツいのに、このレベルで入らなきゃならんのか。でも負けん。

開会式が始まる。参加選手最高齢78歳の選手宣誓「最後まで諦めないで進むことを誓う」にグっとくる。まずい。感情が揺さぶられる。落ち着こう。そして恒例の地元消防団選手の挨拶と掛け声。「全員で山頂に行くぞー。全員でぇ山頂にぃ行くぞぉー。今日のビールはうまいぞー。エイエイオー エイエイオー エイエイオー」

youtubeで何度も見ていたが自分が出場するとなると感極まってしまって、エイエイオーが言えなかったw。アホ、まずいぞ落ち着けよ、高ぶって入れ込んで最初からぶっ飛ばすような真似絶対すんなよ、と自分で自分を必死にクールダウンする。

開始3分前で最前列の選手に軽くインタビュー。ゼッケン20番の選手、と声がかかる。からだ工房らくだの村田さんだ!「10番以内に入ります!」と宣言している。やっぱアツい。

さぁ行くぜ。出し切ろう。絶対諦めない。粘り抜け。勝負!

 

スタート地点はピストルから約1分後に通過。最初の平坦な500mのペースは4’40。混雑してつっかえつっかえしていることを考えると速すぎる。やめろバカ。落とせ!1Km通過は5’03。登りに入ったことを考えると落ちてない。クソ。落とせ落とせ!登ってるんだから5’30で十分だ。誰かいないか?誰か?とキョロキョロする。居た。安定したフォームでゆっくり走っているベテランランナー発見。後ろにつく。この人の後ろで当面は過ごそう。ガンガン抜かれるが気にしない。ジョギング感覚だがペースは悪くない。よし。今日は調子良いみたいだ。

中の茶屋到着42分弱。疲労感全くなし。馬返しに向けて走り始めると周囲のペースが如実に下がる。俺まだ全然イケる。なので抜きにかかる。混雑してるので道路脇の舗装されてないところを進んで抜く。走りづらい…。

9Km過ぎて福田六花さんの長髪を見つける。医師でミュージシャンでトレイルランニング界の有名人。俺より速い人だった筈。Aゼッケン。でも周囲は80%Cゼッケンなので調子悪いのかな?ラスト1Kmの激坂はキツい。そこまで余裕綽綽だったがラスト1Kmで結構消耗した。

 

馬返し到着1時間8分。決して速くないけど自己ベスト。何よりまだ余裕あり。うし!しかし登山道に入ると渋滞が酷い。狭くなると完全に十数秒停まる。そして広くなるとみんな傾斜に構わず猛ダッシュ。そしてまた狭くなり停まる。時間は過ぎるしダッシュは疲れる。なので諦めてダッシュはしないことにする。わずかな時間を稼ぐよりも身体のダメージを防ぎたい。とは言えバシバシ抜かれる。福田六花さんにも抜かれた。

舗装道路に出る。五合目はもうすぐだ。応援の人達が「五合目関門は間に合うけど八合目と山頂はヤバいぞ!急げ!」と叫んでいる。でも冷静。大丈夫だ、俺は五合目から先が強いんだ、イケるイケる。(※山頂に3回行って高度順応している筈という薄い根拠)

 

五合目到着2時間12分半前後。結構時間食ったと思う気持ちと、五合目関門突破出来てホッとする気持ちが半分半分。六合目に向かうが道が狭い。大渋滞で全然進まない。ただ道も狭くてどうしようもないので我慢。心配したりイラついたりして無駄なエネルギーを使わないように。

六合目直前で道が開ける。さぁここから七合目までは嫌らしい砂礫区間。砂が緩くてズリズリ下がってしまう。壁際べったりに寄ると比較的路面が硬いのと壁を掴んで進めることは試走で分かっていたが、登山者や先行ランナーで埋まってるんだろうな…と思ってると居ない!道があいてる!マジか!みんな壁から離れて進んでいる。壁際をズリズリ進む。ここは苦手区間だと覚悟してたがかなり順位を上げられた。周囲のゼッケンはBとCが半分ずつくらい。うし!結構前まで上がってきた。

 

七合目に来た。岩場セクション。ここは得意だ。試走の時から一番通りやすいルートはあえて選ばず登ってきた。本番では混んでて選べないと思っていたからだ。クライミングをやっていたことがあり、普通のランナーだと登ろうと思わない岩も登れる自負がある。当然段差がキツく疲労するのだが俺の勝負所はココだと決めていた。行け!登れ!攻めろ!突っ込め!と自分を鼓舞する。隣のランナーより早く肩や足を出して自分の方が前だと主張して抜きまくる。呼吸は荒く心臓は飛び出そうだがここは無理をするところだ。攻めろ!無双状態で抜きまくった。多分全く抜かれていない。周囲のゼッケンは80%がBゼッケンになった。Aゼッケンも10%程度はいる。完走ゾーンに入った手ごたえがある。近くに居たベテラン風のランナーに「大丈夫そうですか?」と聞くと「大丈夫でしょう」との返事。うし!もらった!

富士一館に到着した。山小屋のおじさんに来たぜ!と言いたかったが姿は見えない。残念に思って小屋を通り過ぎようとした時、俺のゼッケンNOと名前、そして「頑張れ!」と書かれた段ボールが目に飛び込んできた。一瞬で涙腺が緩む。一人で走っててチームとかに入っていないのでこんなことしてもらったことがない。嬉しい。力になる。でかい声で「行くぞ!絶対登る!」と叫ぶ。周囲はうるさいだろうが声を出すと元気になる。

 

岩場セクションが終わり再び砂礫区間。俺の快進撃も終了。周囲より若干速い程度のペースになる。道幅は広いが一番硬いところは登山者、次に硬いところは遅いランナーが登っている。抜こうとすると酷い足場を行くことになる。3歩進むと1歩下がる感じだ。辛い。ペースが上がらない。

八合目関門の小屋が見えてくる。関門まであと20分。でも最低でも7-8分残し、できれば10分残しで通過しないと山頂到達は厳しい。あと10分であそこまで行けるのか?無理じゃね?おかしいな、俺かなりいいペースで来てるはず。現に周りにはCゼッケンなどほとんどいなくなっていて、ボリュームゾーンは1000~1200番のゼッケン。完走できる人達の中に入ってる筈なんだけど…。

前を登る女性が知っている人だと気づく。俺のベストレースだった奥久慈トレイルで中盤まで前後していた人だ。ブログをやっていて俺よりだいぶ実力が上だった筈。奥久慈でも最後はぶっちぎられている。ここで彼女に追いつくということはやはり良いペースじゃないか?追いつくと自作らしいタイムテーブルを見ていたので「間に合いそうです?」と声をかけると「厳しい」という返事。「どっちが?」「八合目でギリギリ。山頂は難しい」。

クソ。やっぱりそうか。これでダメなのか。俺は今までノーミスで来ている筈。調子の波はあるけど概ねいい感じで登れてる。抜きまくってきた(後で見たら五合目~八合目で順位を300以上あげている)。これでもダメなのか?なんなんだよ!八合目関門以降に残していた予備タンクにも点火してスピードを上げる。苦しい。心臓が出てきそうだ。でもやるしかない。八合目打ち切りなんてごめんだ。

 

八合目関門通過は関門の約1分半前。残り時間31分少々。試走時に疲労のない状態で全力で登って32分かかっている。厳しい。けど諦めるな。行け!登れ!

ペースが全然上がらない。前のランナーを抜けない。逆に抜かれる。抜かれているようでは絶対に間に合わない。付こうとするが付けない。呼吸は苦しい心拍も上がっているスタミナも残っていない。クソ。こういう時はメンタルだ。発奮するようなことを思い出せ、粘れ、頑張れ、押し切れ、練習したじゃねーか、子供に頑張るって言ったじゃないか! …全く効果なし。厳しいかもと思い始める。

九合目の鳥居通過で残り10分。ここから何分で行けたっけ?思い出せない。10分で行けたような気もする。見上げても霧で山頂は見えない。とにかく諦めるな。上へ上へ。

残り5分。見上げると山頂が見えた。遠い。ダメだ。これは絶対に無理だ。予想じゃなくて事実だ。終わった…。

絶対に間に合わないならゆっくり行くか?と一瞬思うがペースを落とせない。最後の一秒まで全力を尽くせ。間に合うかどうかは問題ではない。姿勢の問題だ。無理だから手を抜くなら2ヶ月前の時点でやってない。もう時計なんか見るな。登り続けろ!

 

「あー」「終わったー」という声が周囲から聞こえる。更に「お疲れ様でした」「来年頑張りましょう」という声も聞こえる。時計を見ると4時間30分を回っていた。見上げると山頂はすぐそこだった。周囲の雰囲気が弛緩するのが分かる。それまで上へ上へと進んでいた集団の動きが緩慢になる。走る前は「ダメだったら泣くのかな?」って思ってたけど、そんなこともなく淡々と受け入れた。八合目手前からある程度予想できていたからかな。ゆっくり歩いて山頂の測定シートを越える。4時間36分を過ぎたところだった。終わっちゃったなぁ。

 

山頂に給水所があると聞いていたがどこにもない。撤収されちゃったのかな。まぁいいや。山頂の小屋でコーラを買って空いてるベンチに座ってゆっくり飲む。気づくと2m前でハブくんがインタビュー受けていた。コメントを聞いているとどうも完走したらしい。おめでとう!頑張ったんだろうな。撮影が終わりスタッフと抱き合っている。周囲のランナーも「どうだった?行った?おめでとう!」と抱きついている。自分もおめでとうくらい言いたかったが、逆質問されて微妙な雰囲気にしてしまうのも悪いなぁと黙ってた。負けるってのはこういうことだよなぁって思う。

撮影スタッフが目の前に座った。登山家の中島健郎くんじゃないか!思わず声かける。七合目以降のランニングカメラマンをやってたらしい。すげー。テクニックも体力もあるんか。完走しましたか?と聞かれた。いや6分足りませんでした、来年頑張りますよ、と言うと何て言っていいか分からない顔をされた。やっちまった。余計なことしないで下山しよう。

 

下界に降りて結果速報を見ると、からだ工房らくだの村田さんが10番に入っていた。すげーな。有言実行だな。ハブくんもやったし、俺だけダメ人間だなとちょっと凹む。でも自分の順位を見ると1100番台だった。そっか。俺も一応健闘したんだな。でもこの順位で完走できないのか。3桁ゼッケン集団に入らないと完走できないってことなのかな?

 

帰りの車から富士山を見上げる。暖かくは迎えてくれなかったけど、でもチャレンジして良かったと思った。この大会は最高に面白い。スタート地点からゴールが見えていて「お前にやれんのかよ!」と威圧してくる。フルマラソンもトレイルランも色々テクニカルになってきてるけど、富士登山競走は子供のかけっこのような素朴さがある。単純に登って登って登りまくる。またやろう。来年完走して倍喜んでやろう!そんなことを考えながら帰った。