ハセツネ2017の記憶

日本山岳耐久レース(ハセツネ)は自分が大学生だった頃始まった。山の中の70Kmを24時間以内で走るという当時他に聞いたことのないレースだった。100Kmマラソンを走りクライミングに明け暮れていた自分の為にあるようなレースじゃないか!と思い、第1回大会に申し込んだのだが、何故か結局走らなかった。理由はどうにも思い出せない。40歳過ぎて再び走り出した時、このレースがまだやっていて、数あるトレイルレースの中でも特別な存在感を持っていることを知った。71.5Kmという距離自体はそれ以上の距離のレースが乱立していることもあり驚くようなものではなくなっているが、途中のエイドが1ヶ所しかなく貰えるのは水(もしくはポカリ)1.5Lのみ、食べ物類の提供はなし、他者のサポートを受ければ即失格、スタート時間は13時で夜間走行必須(というより走ってる時間のほとんどは夜)という質実剛健な大会である。

 

夜は寝ていたい体質の自分はちょっと敬遠していたのだが、まぁ一度くらいは出てみてもいいかな、と昨年(2017年)実質予選会みたくなっているハセツネ30Kで出場権を得て本戦出場した。この年の5月に、ハセツネよりキツいと言われる奥久慈トレイルを完走していたし、10月の頭に疲労を溜めてしまうとその後のフルマラソンに影響出そうなので、まぁ夜間走行の練習という位置づけで80%程度の力で余力を持って完走しておくか…などとナメたことを考えていた。

 

しかしレースに出てみるとスタート直後から異様に気持ち悪い。7Kmの入山峠を過ぎたところで吐いた。10Km地点を示す道標脇の倒木に10分以上座り込んで走る人達をボケーっと眺めていた。10Kmなんて毎朝走ってる距離だ。山の中とは言えこんなところで座り込むなんてない。現にそんな奴は一人もいない。みんな荒ぶる気持ちを内に秘めて魂の走りで前へ前へ進んでいるのに、自分だけ完全に戦意喪失している状態が情けなくてちょっと泣いた。

 

その後も吐いたり座り込んだりしながら、第一関門(22Km地点)の浅間峠に5時間以上かけて辿り着いた。ここでザックの整理をすると衝撃。3L持ってきた水が残り400mlになっていた。吐いた後に脱水を恐れて飲みまくってたのが原因だろう。水が貰えるのは20Km先。今の調子だと5時間近くかかる筈。400mlで行けるのか?ここまでも相当遅かったが更にペースを落として汗をかかないように進むしかない。しかし2Kmほど進んだところでどうしてもこの水の量では20Km進めないことが分かった。それなりにキツい登りが断続的にあり、そこではかなりペースを落としても汗が出てくる。水を飲まないと更に気持ち悪くなる。無理して突っ込んで脱水症状になっても簡単に降りれる場所じゃない。大会関係者に迷惑をかけるのは避けたいし、どう考えても諦めるしかなかった。第一関門に戻ってリタイアを告げて下山した。

 

リタイアを決めた時は「まぁこの体調じゃ仕方ないな」と軽い気持ちで受け入れたのだが翌朝から酷い自己嫌悪に苛まれた。体調が悪かったのは事実だしこれは不可避だったにせよ、それでもその状況を受け入れて何とかしようという最大限の工夫をしていればまだ戦いようがあったのではないか?好き放題パカパカ水飲んでたのは緊張感や目的意識がなさすぎたのではないか?そもそも凶悪で知られるハセツネを80%の力で余力残してゴールしようなんて何様のつもりだったのか?来年はしっかり準備して100%の力で真っ向勝負してねじ伏せてやる!今年は15時間くらいで完走したいと思ってたけど15時間じゃねじ伏せてる感じはしないなぁ、10時間切りだとねじ伏せ感たっぷりだけど、そりゃ一流トレイルランナーのタイムだし逆立ちしても無理だな、じゃぁ半日の12時間切りを目標にしよう、かなり無理目だけど目標は高く持たなきゃね、なんて考えていた。

 

 

 

富士登山競走 山頂コース2018本番

2018.7.27 富士登山競走当日 5:50頃会場入り。

速そうなランナーがゴロゴロいる。短髪・日焼け・脂肪無しの三点セット。走らなくても分かる。絶対にあんたには勝てん。案の定Aゼッケン。体型からゼッケンを当てる遊びをしばらくしてたが虚しくなってきてやめる。速い人見てビビっても仕方がないし、空元気で気合注入しても疲れるだけだ。ボケーっとしよう。どんだけたるんでいてもエイエイオーでスイッチ入るだろう。

6:30スタートライン開放。Cブロックの先頭から4列目くらいに位置付ける。最後尾より20秒くらい早くスタートできる筈。20秒が効くことは大いにあり得る。後悔の芽は全て摘むんだ。

Cブロックの山頂到達率は過去実績では13%程度。8人に1人だ。周囲のランナーはキッチリ仕上げてきている様子の人ばかり。その辺のマラソン大会ですら上位13%に入るのはキツいのに、このレベルで入らなきゃならんのか。でも負けん。

開会式が始まる。参加選手最高齢78歳の選手宣誓「最後まで諦めないで進むことを誓う」にグっとくる。まずい。感情が揺さぶられる。落ち着こう。そして恒例の地元消防団選手の挨拶と掛け声。「全員で山頂に行くぞー。全員でぇ山頂にぃ行くぞぉー。今日のビールはうまいぞー。エイエイオー エイエイオー エイエイオー」

youtubeで何度も見ていたが自分が出場するとなると感極まってしまって、エイエイオーが言えなかったw。アホ、まずいぞ落ち着けよ、高ぶって入れ込んで最初からぶっ飛ばすような真似絶対すんなよ、と自分で自分を必死にクールダウンする。

開始3分前で最前列の選手に軽くインタビュー。ゼッケン20番の選手、と声がかかる。からだ工房らくだの村田さんだ!「10番以内に入ります!」と宣言している。やっぱアツい。

さぁ行くぜ。出し切ろう。絶対諦めない。粘り抜け。勝負!

 

スタート地点はピストルから約1分後に通過。最初の平坦な500mのペースは4’40。混雑してつっかえつっかえしていることを考えると速すぎる。やめろバカ。落とせ!1Km通過は5’03。登りに入ったことを考えると落ちてない。クソ。落とせ落とせ!登ってるんだから5’30で十分だ。誰かいないか?誰か?とキョロキョロする。居た。安定したフォームでゆっくり走っているベテランランナー発見。後ろにつく。この人の後ろで当面は過ごそう。ガンガン抜かれるが気にしない。ジョギング感覚だがペースは悪くない。よし。今日は調子良いみたいだ。

中の茶屋到着42分弱。疲労感全くなし。馬返しに向けて走り始めると周囲のペースが如実に下がる。俺まだ全然イケる。なので抜きにかかる。混雑してるので道路脇の舗装されてないところを進んで抜く。走りづらい…。

9Km過ぎて福田六花さんの長髪を見つける。医師でミュージシャンでトレイルランニング界の有名人。俺より速い人だった筈。Aゼッケン。でも周囲は80%Cゼッケンなので調子悪いのかな?ラスト1Kmの激坂はキツい。そこまで余裕綽綽だったがラスト1Kmで結構消耗した。

 

馬返し到着1時間8分。決して速くないけど自己ベスト。何よりまだ余裕あり。うし!しかし登山道に入ると渋滞が酷い。狭くなると完全に十数秒停まる。そして広くなるとみんな傾斜に構わず猛ダッシュ。そしてまた狭くなり停まる。時間は過ぎるしダッシュは疲れる。なので諦めてダッシュはしないことにする。わずかな時間を稼ぐよりも身体のダメージを防ぎたい。とは言えバシバシ抜かれる。福田六花さんにも抜かれた。

舗装道路に出る。五合目はもうすぐだ。応援の人達が「五合目関門は間に合うけど八合目と山頂はヤバいぞ!急げ!」と叫んでいる。でも冷静。大丈夫だ、俺は五合目から先が強いんだ、イケるイケる。(※山頂に3回行って高度順応している筈という薄い根拠)

 

五合目到着2時間12分半前後。結構時間食ったと思う気持ちと、五合目関門突破出来てホッとする気持ちが半分半分。六合目に向かうが道が狭い。大渋滞で全然進まない。ただ道も狭くてどうしようもないので我慢。心配したりイラついたりして無駄なエネルギーを使わないように。

六合目直前で道が開ける。さぁここから七合目までは嫌らしい砂礫区間。砂が緩くてズリズリ下がってしまう。壁際べったりに寄ると比較的路面が硬いのと壁を掴んで進めることは試走で分かっていたが、登山者や先行ランナーで埋まってるんだろうな…と思ってると居ない!道があいてる!マジか!みんな壁から離れて進んでいる。壁際をズリズリ進む。ここは苦手区間だと覚悟してたがかなり順位を上げられた。周囲のゼッケンはBとCが半分ずつくらい。うし!結構前まで上がってきた。

 

七合目に来た。岩場セクション。ここは得意だ。試走の時から一番通りやすいルートはあえて選ばず登ってきた。本番では混んでて選べないと思っていたからだ。クライミングをやっていたことがあり、普通のランナーだと登ろうと思わない岩も登れる自負がある。当然段差がキツく疲労するのだが俺の勝負所はココだと決めていた。行け!登れ!攻めろ!突っ込め!と自分を鼓舞する。隣のランナーより早く肩や足を出して自分の方が前だと主張して抜きまくる。呼吸は荒く心臓は飛び出そうだがここは無理をするところだ。攻めろ!無双状態で抜きまくった。多分全く抜かれていない。周囲のゼッケンは80%がBゼッケンになった。Aゼッケンも10%程度はいる。完走ゾーンに入った手ごたえがある。近くに居たベテラン風のランナーに「大丈夫そうですか?」と聞くと「大丈夫でしょう」との返事。うし!もらった!

富士一館に到着した。山小屋のおじさんに来たぜ!と言いたかったが姿は見えない。残念に思って小屋を通り過ぎようとした時、俺のゼッケンNOと名前、そして「頑張れ!」と書かれた段ボールが目に飛び込んできた。一瞬で涙腺が緩む。一人で走っててチームとかに入っていないのでこんなことしてもらったことがない。嬉しい。力になる。でかい声で「行くぞ!絶対登る!」と叫ぶ。周囲はうるさいだろうが声を出すと元気になる。

 

岩場セクションが終わり再び砂礫区間。俺の快進撃も終了。周囲より若干速い程度のペースになる。道幅は広いが一番硬いところは登山者、次に硬いところは遅いランナーが登っている。抜こうとすると酷い足場を行くことになる。3歩進むと1歩下がる感じだ。辛い。ペースが上がらない。

八合目関門の小屋が見えてくる。関門まであと20分。でも最低でも7-8分残し、できれば10分残しで通過しないと山頂到達は厳しい。あと10分であそこまで行けるのか?無理じゃね?おかしいな、俺かなりいいペースで来てるはず。現に周りにはCゼッケンなどほとんどいなくなっていて、ボリュームゾーンは1000~1200番のゼッケン。完走できる人達の中に入ってる筈なんだけど…。

前を登る女性が知っている人だと気づく。俺のベストレースだった奥久慈トレイルで中盤まで前後していた人だ。ブログをやっていて俺よりだいぶ実力が上だった筈。奥久慈でも最後はぶっちぎられている。ここで彼女に追いつくということはやはり良いペースじゃないか?追いつくと自作らしいタイムテーブルを見ていたので「間に合いそうです?」と声をかけると「厳しい」という返事。「どっちが?」「八合目でギリギリ。山頂は難しい」。

クソ。やっぱりそうか。これでダメなのか。俺は今までノーミスで来ている筈。調子の波はあるけど概ねいい感じで登れてる。抜きまくってきた(後で見たら五合目~八合目で順位を300以上あげている)。これでもダメなのか?なんなんだよ!八合目関門以降に残していた予備タンクにも点火してスピードを上げる。苦しい。心臓が出てきそうだ。でもやるしかない。八合目打ち切りなんてごめんだ。

 

八合目関門通過は関門の約1分半前。残り時間31分少々。試走時に疲労のない状態で全力で登って32分かかっている。厳しい。けど諦めるな。行け!登れ!

ペースが全然上がらない。前のランナーを抜けない。逆に抜かれる。抜かれているようでは絶対に間に合わない。付こうとするが付けない。呼吸は苦しい心拍も上がっているスタミナも残っていない。クソ。こういう時はメンタルだ。発奮するようなことを思い出せ、粘れ、頑張れ、押し切れ、練習したじゃねーか、子供に頑張るって言ったじゃないか! …全く効果なし。厳しいかもと思い始める。

九合目の鳥居通過で残り10分。ここから何分で行けたっけ?思い出せない。10分で行けたような気もする。見上げても霧で山頂は見えない。とにかく諦めるな。上へ上へ。

残り5分。見上げると山頂が見えた。遠い。ダメだ。これは絶対に無理だ。予想じゃなくて事実だ。終わった…。

絶対に間に合わないならゆっくり行くか?と一瞬思うがペースを落とせない。最後の一秒まで全力を尽くせ。間に合うかどうかは問題ではない。姿勢の問題だ。無理だから手を抜くなら2ヶ月前の時点でやってない。もう時計なんか見るな。登り続けろ!

 

「あー」「終わったー」という声が周囲から聞こえる。更に「お疲れ様でした」「来年頑張りましょう」という声も聞こえる。時計を見ると4時間30分を回っていた。見上げると山頂はすぐそこだった。周囲の雰囲気が弛緩するのが分かる。それまで上へ上へと進んでいた集団の動きが緩慢になる。走る前は「ダメだったら泣くのかな?」って思ってたけど、そんなこともなく淡々と受け入れた。八合目手前からある程度予想できていたからかな。ゆっくり歩いて山頂の測定シートを越える。4時間36分を過ぎたところだった。終わっちゃったなぁ。

 

山頂に給水所があると聞いていたがどこにもない。撤収されちゃったのかな。まぁいいや。山頂の小屋でコーラを買って空いてるベンチに座ってゆっくり飲む。気づくと2m前でハブくんがインタビュー受けていた。コメントを聞いているとどうも完走したらしい。おめでとう!頑張ったんだろうな。撮影が終わりスタッフと抱き合っている。周囲のランナーも「どうだった?行った?おめでとう!」と抱きついている。自分もおめでとうくらい言いたかったが、逆質問されて微妙な雰囲気にしてしまうのも悪いなぁと黙ってた。負けるってのはこういうことだよなぁって思う。

撮影スタッフが目の前に座った。登山家の中島健郎くんじゃないか!思わず声かける。七合目以降のランニングカメラマンをやってたらしい。すげー。テクニックも体力もあるんか。完走しましたか?と聞かれた。いや6分足りませんでした、来年頑張りますよ、と言うと何て言っていいか分からない顔をされた。やっちまった。余計なことしないで下山しよう。

 

下界に降りて結果速報を見ると、からだ工房らくだの村田さんが10番に入っていた。すげーな。有言実行だな。ハブくんもやったし、俺だけダメ人間だなとちょっと凹む。でも自分の順位を見ると1100番台だった。そっか。俺も一応健闘したんだな。でもこの順位で完走できないのか。3桁ゼッケン集団に入らないと完走できないってことなのかな?

 

帰りの車から富士山を見上げる。暖かくは迎えてくれなかったけど、でもチャレンジして良かったと思った。この大会は最高に面白い。スタート地点からゴールが見えていて「お前にやれんのかよ!」と威圧してくる。フルマラソンもトレイルランも色々テクニカルになってきてるけど、富士登山競走は子供のかけっこのような素朴さがある。単純に登って登って登りまくる。またやろう。来年完走して倍喜んでやろう!そんなことを考えながら帰った。

 

 

富士登山競走 山頂コース2018に向けての練習②

富士登山競走のプログラムが送られてきた。俺のゼッケンは2500番ちょっと。この大会は過去実績順に番号が割り振られる。ゼッケン最後は2600番台。完走率50%ということは順当にいけば1300番あたりまでしか完走できない。2500番台など問題外の外の外だ。現実を直視するのは辛いなぁ。

 

7/8(日)。馬返し~山頂再挑戦。

ガチで勝負。ここでもダメなら心が折れてしまいそうなので木曜日から練習量を落とし、土曜日は完全オフ。レース本番並みのテーパリングで挑む。スタート前には600円もするベスパハイパーを飲みボトルポーチにはソフトフラスクとジェルとペラペラのシェルしか入れない超軽量化。水や食料が足りなければ山小屋で高いのを買う、雨が降ったら耐える・激しければ引き返す。行くぜオラ、根性見せろよ!

五合目通過は59分。ヨシ。まだ余力あり。グイグイ登れる。雨が強くなってくる。寒い。関係ねー。七合目で水が切れる。富士一館という山小屋に飛び込みアクエリアスを購入してソフトフラスクに入れてシェルを羽織る。ゼーゼー言いながらピット作業をしていると山小屋のおじさんが「下から来たのか?」とか「どれくらいで来たのか?」とか話しかけてくる。雑に返答して「すみません。タイム測ってるんで」と外に飛び出す。暴風雨みたくなっていて寒いが関係ねー。四つん這いで岩場を登り砂礫地帯を踏み越えて山頂到着3時間9分。やった!雨で人気のない山頂で「うおーーー!」と叫ぶ。ついに当落線上にこれた。1%どころじゃない。5%くらいの可能性は出たんじゃないか?先週登ったことで高度順応できたのだろう。疲労を抜いて軽量化して寒ければイケる可能性はある。

 

7/14(土)馬返し~山頂

前の週、追い込みすぎて木曜日くらいまで疲労が抜けず。更に追い込むと本番に疲労を残すことになるのでゆっくり上がる。高度順応と岩場のコース確認が目的。七合目の岩場は渋滞すると聞く。一番登りやすいルートは塞がれている筈なのでセカンドベストのルートを確認しておきたい。

五合目に行く途中で登山者とペチャクチャ話してしまい五合目到着は1時間17分。七合目でコーラが飲みたくなって先週と同じ富士一館に入ると先週のことを覚えていてくれた。今回は談笑。富士登山競走のプログラムを引っ張り出してきて番号を教えろと言う。いや、あの、2500番台なんですけど…先週格好つけてたのに恥ずかしい。山小屋のおじさん、プログラムにマーキングしながら「絶対にここまで登って来いよ!」と励ましてくれる。いやまぁ頑張りますけど2500番台ですからね…などと卑屈に言うと「関係ないよ、気持ちだよ!」。アツいなぁ。八合目関門までゆっくり上がり八合目からタイムアタック。全力で上がって32分。本番だと疲れてるだろうから37-8分は欲しいな。

山頂到着は3時間33分。ダラダラしてたのに二週間前より速い。五合目以降は先週とあまり変わらない。山頂で4時間ほど時間を潰して高度順応して下山。やべぇ、行ける気がしてきちゃった。

 

7/21(土)富士吉田市役所~馬返し

毎週毎週富士山に通って気まずい。嫁さんに「あのー今週末も朝から富士山に行きたいんですけど…」と恐る恐る切り出すと、「そう?お弁当いる?」と返事。ありがたい。でも疲労が残るので今日は山頂には行かないのでいらない。今日は下界で一発タイムトライアル。馬返しまでのベストが1時間9分はまずい。1時間5分、欲を言えば1時間3分くらいでは走っておきたい。

結果:1時間10分…。マジか…。気負って前半突っ込みすぎました。中の茶屋で限界を感じて9Km地点から歩いてしまった。到着したら疲労でぐったり。調子に乗った罰だ。凹む。行ける気になってたけど馬返し1時間10分じゃ五合目関門に引っかかる可能性が大いにある。でも練習で失敗しておいて良かった。気を付けよう。調子に乗ってたけど俺は全然速くない最下層ランナーなんだ。抑えて抑えて温存温存。しぶとく行かないと。

 

7/24(火)静岡県焼津で整体

「からだ工房らくだ」という熱いブログを書く整体師さんに施術してもらう。痛くて仕方ない右踵をなんとかして欲しい。すぐ治るとも思っていなかったので富士登山競走に向けてというよりその先を見据えて行ってきた。激アツなブログには共感できることも多く、いつか行きたいと思っていたらちょうど近くに出張で行ったので、偉い人達との会食をブッチして。そしてここの村田先生は富士登山競走のエリート枠。栄光のエリートゼッケン20番。今年は10番以内に入る!とアツい。魂を注入してもらう。踵の痛みの原因と効果のある運動も教えて貰う。すぐには治らないだろうが続けてみよう。

 

 7/26(木)大会前日 酸素カプセルに入る。

効果があることは確実ではないけど、悪くはならないだろう。ほんの少しでも効果があれば良し。金をケチってる場合じゃない。体力財力精神力の総合力で勝負だ!さぁいよいよ明日。やれることはやった。平日もいつものジョグに加えて、マンションの階段登りや近所の激坂インターバルをしてきた。どうしてもやりたくない日もあった。暑かった。でもそんな日こそ外に出て走った。本番は絶対にメンタル勝負になる。練習を頑張れば本番で踏ん張る理由が一個出来る、だから今は頑張れと思ってきた。これでダメなら仕方がない。静かな気持ちで21時には就寝。

 

富士登山競走 山頂コース2018に向けての練習①

富士登山競走2017五合目コースは制限時間ギリギリで山頂コース挑戦権を得たが、このままでは山頂には確実に行けないことが分かった。でもまだ1年ある。しっかり準備してチャレンジしようと思った。だがここからが悪夢の連続。毎月のように発熱する。発熱すると2W近く練習が中断される。走力は落ちるばかり。12月にはインフルA型発症。2月の別大マラソンに向けて故障上等で1月に週3回のポイント練習を敢行するも1月末にインフルB型発症。別大は出場できず。残ったのは1月の練習で痛めた右足の踵痛だけだった。

 

2月は体調を戻すことと踵痛を治すことを最優先にして30Kmしか走らず。

3月から練習開始。200Km走って4/1のハセツネ30Kに備える。何とか700番台で秋の本戦出場権を取るも前年より順位を200番以上下げる。まぁ仕方ない。富士登山競走山頂コースのエントリー成功。

4月は300Km走る。但し踵の痛みが引かずほとんどジョグ。

5月は踵痛が悪化。スピード練習したかったが全くできずでジョグばかり260Km。富士登山競走まで2ヶ月を切った。山用の脚を作らないと間に合わない。山は下りで踵が悲鳴を上げるので避けたかったが、このままジョグばかりしていても治らないので練習始めるしかない。

 

6月一週目。富士登山競走五合目コースを試走。去年病み上がりで2時間18分。普通の体調ならどれくらいで行けるか確認するのが目的。富士吉田市役所の駐車場に車を停めて準備をしていると女性職員らしき人が「競走の試走ですか?」と声をかけてくる。勝手に駐車場に停めてまずかったかな?と尋ねると、もちろんいいですよ。練習頑張って下さい!との返事。富士吉田には登山競走が文化として根付いてる感じがする。試走は水を中心に3Kgの荷物を背負ったとは言え、馬返し1時間9分、五合目2時間14分…。遅い。本番ではスタートロスが1分あるのでこれでは五合目関門を突破できない。更に五合目でオールアウト。しばらく休んでから六合目まで上がってみたがフラフラ。市役所までの帰りが辛かった。ロードの登りが遅いことが何より問題。

6月二週目。八重山トレイルに会社のGさんと参加。Gさんはトレイルレース初挑戦。初心者向けのレースを選んだ筈なのに走ってみたらメッチャきつい。天候は土砂降り。第一給水所まで一緒に行きましょうとか言っておいて、スタート30mで前に行ってしまう俺。中間地点で熱中症みたくなってしまい20分くらい寝る。復活したのでフラフラ走る。途中で話したランナーに次のレースを聞かれて富士登山競走と答えると、微妙な空気が流れる。こんな後ろの方を走ってる奴が何言ってんだ?って感じ。ごめんなさい。グダグダで終了。

6月三週目と四週目。とにかく基本ができていないので地元箱根の坂で練習。家からちょうど10Kmで550m上がれるロードを仮想馬返しルートに仕立てて登る。この坂は絶頂期であれば60分切れるのだが、62-64分程度のタイムしか出ない。走るの好きだけど才能ないんだなぁもうやめちゃおうかなってチラっと思う。

 

6/30 馬返し~山頂試走。目標3時間15分。というか3時間15分で登れないなら完走は絶対に無理。もう一つ、馬返し~五合目も60分切りしておきたい。フレッシュな状態で60分切れないようなら五合目関門すら突破できない。結果…3時間45分。ごしゅーしょーさまでしたー。馬返し~五合目も62分かかった。山開きの前日で、登ってる人の半分以上がランナー。抜かれまくる。なぜそんなに速く登れるのか意味が分からない。昨日の午後に北岳から徹夜で走ってきたとか言ってる人(24時間以内に日本で一番と二番の山を走って踏破するつもりらしい。100Km以上離れてるんですけどー)や山頂で談笑しながら高速お鉢巡りを楽しんでる人、そして殆どの人が市役所から走ってきてるらしく、下山後のロードも元気に市役所まで走って戻ってる…。こんな頭のおかしな集団が出る大会なのかと打ちのめされる。自分の場違い感が甚だしい。でも帰りの車の中でモハメドアリの言葉を思い出す。

不可能とは、自らの力で世界を切り開くことを放棄した、臆病者の言葉だ。不可能とは、現状に甘んじるための言い訳にすぎない。不可能とは、事実ですらなく、単なる先入観だ。不可能とは、誰かに決めつけられることではない。不可能とは、可能性だ。不可能とは、通過点だ。不可能なんて、ありえない。

今更なんだよ。無茶苦茶だってことは最初から分かってた筈だ。事実を突きつけられて逃げだすのなら最初からやらなきゃいい。ここで努力をやめたら100%不可能だ。どんな気持ちでスタートラインに立つんだよ。1%でも可能性を見つけよう。こじ開けよう。諦めてたまるか。

 

富士登山競走 五合目コース2017

富士登山競走の存在は昔から知っていた。市民ランナーグランドスラムというのがあり、フルマラソン3時間切り、100Kmマラソン10時間切り、富士登山競走完走の3つを達成すること。他の2つのレベルの高さから自分が挑戦してよい領域を完全に逸脱しているとは思っていたが、色々調べると登りの強い人ならフルマラソン3時間半程度の走力でも完走例はあるらしい(但し登りや高度に弱い人はサブスリーランナーでも完走は難しいらしいが)。試してみたいな…という気持ちになった。距離21Km、高度差3000m、日本中のガチランナーを集めても完走率50%程度。どんな世界なんだろう?

 

山頂コースは、まず五合目コースに出場して一定の成績を挙げないと出場権利が得られない。山頂コース挑戦は最短でも1年かかる。今の実力がうんぬんかんぬんとか言う前にとにかくまずは五合目コースに出ることが最優先。2015年に申し込んでみた。ところが、インターネットで先着順に申し込みするのだが大人気すぎて全く申し込めない。申し込み開始5分前から家中の電子機器をかき集めてスタンバイしているにもかかわらず2015年、2016年と申し込み画面に到達した時には既に五合目コースは締め切られていた。五合目コースは参加人数が1500名で資格のない人が殺到する。山頂コースは2500人で有資格者だけの申し込みなので、まだ比較的取りやすい。爺さんになる前にとにかく五合目に出なければと焦る。そして2017年についに申し込むことができた。

 

五合目コースは、山頂コースと同じコースを走る。標高770mの富士吉田市役所をスタートし、ロードを10.5Km走って標高1450mの馬返し、そこから先は5Kmの登山道を一合目から順に上がっていき、標高2250mの五合目まで合計約1500mを登る。最初のロードで既に箱根駅伝の山登り区間である5区より傾斜がキツいのだが、先へ行けば行くほど傾斜は増す。

これを2時間20分以内で登ると3年間の山頂コース挑戦権が貰える。しかし山頂コースの五合目関門はもっと厳しく2時間15分である。そして更に山頂コースは実績順にゼッケンが異なり速い人から順に前に並ぶことができるのだがBゼッケンは2時間10分切りで貰えると言われている。山頂コースの完走率はBゼッケンで50%程度、その下のCゼッケンになると13%まで下がる。Bゼッケンくらいは取っておかなきゃな…と思う。前年にTV番組「ランスマ」で出場したハブくんという芸人が2時間5分で登っていた。彼は当時フルマラソンで3時間半を切っていない。俺の方が速い。なのでまぁ目標はそこら辺かな?と安易に考えていた。後々、ハブくんが異常に登りに強いことを思い知らされるのだが…。

 

2017年7月28日(金)8:30 五合目コーススタート。

実はこの3日前に発熱してしまい2日前は会社を休んだ。38℃を超える熱だった。前日は熱が下がり出社したものの完全に病人で前日までは出走を諦めていた。だが当日朝4時に起きると風邪の症状はない。調子は走ってみないと分からないけど行くしかない、また3年待つのはごめんだ!と急いで準備して現地へ。

 

走り始めた。暑い。調子は…悪い。当然だ。スタートして500mは平坦。左折すると富士山がドーンと見える。ここからはずーっとゴールまで登りっぱなしだ。試走していないのでコースがよく分からないがとにかく登る。富士吉田の市街地を抜けて3Km地点の富士浅間神社を越えると延々と続く登りの一本道が見渡せる。萎える。地面は水玉模様になっている。前を走るランナー達の汗だ。すげぇ。7Km地点の中の茶屋給水所到着は42分。ハブくんと同じくらいの筈。まずまずだ。暑くて喉が渇いている。アクエリアス2杯を一気飲みして先へ進むが傾斜が一気に急になる。まずい。全然走れない…。ここまで周囲のペースと似たような感じで走っていたのだがここから一気に抜かれ始める。まずい。

 

富士登山競走の格言の一つに「馬返しまでは走れ」というのがある。10.5Kmの馬返しまでは走らないと間に合わないのと、そこまでも走れない奴には完走できないという両方の意味があるのだろう。でも俺、9Km地点でついに歩く。こんな激坂走れるかよ!周りの人達はほとんど走っている。レベルが違うのか俺の体調が悪いのか…。

 

馬返し到着 1時間12分。遅い…。

確かハブくんは1時間5分位で通過してた筈。あんだけ盛大に歩けば当たり前だ。残り4Kmの看板があった。4Kmで800mUPか。これまでのトレランの経験だとキロ15分ペースで1時間位かな?とザックリ計算する。Bゼッケンは難しいが今日の体調だと高望みをする必要はない。2時間20分切りさえすれば良い。GPS時計でペースを確認しながらキロ15分ペースを外さないように進む。時々走って抜いていく人がいる。すげーな、こんな登山道走れるのかと驚く。でも気にしない。今日はこのペースで十分だ。周囲はゼーハー言いながら登っているが自分はほとんど息切れしていない。だからと言って余裕がある訳ではなくこれ以上ペースは上げられない。もう疲労困憊だ。

 

キロ15分を守り切り4Km進んだ。時間は2時間12分。疲れた。さぁゴールはどこじゃ?と思っていると応援の人が「あと500m!頑張れ!」と叫んでいる。「はぁぁぁ?ホントに500もあんの?」と聞き返すと「あります。制限時間ギリギリです。頑張れ!」と返事。俺は今キロ15分で進んでいる。500m進むのに7分半かかる。今の時間は2時間12分。ゴール予想時間2時間19分30秒。応援の人も正確に距離を測っている訳ではないだろう。600mあったらアウトだ。極めてまずい状態に陥っていたことに初めて気づく。慌てて走る。呼吸がゼーハーする。走り続けられない。登りはキツいし疲れているし標高も2000mを超えており酸素も薄い。ペースが上がらない。まずい。まずいまずいまずい。また3年かけて五合目コースを走るのなんて絶対に嫌だ。くそっくそくそくそ。身体動けよ!

 

周囲からも緊迫感が出てきた。みんな焦っている。誰かが「頑張ろうぜ!」と叫ぶ。「おおう!」と周囲が叫ぶ。また誰かが「来年山頂行こうぜ!」と叫ぶ。俺も「おう!絶対行くぞ!」と叫びながら進む。同じ目標に向かう人達との同調というか連帯感が半端ない。こんな大会は初めてだ。舗装道路に出た。確かゴールは舗装道路なのでいよいよかと思ったら、また登山道に入る。マジでまずい。ゴールはどこなんだよ?あの馬返しの「残り4Km」の看板は大嘘じゃねーか、ちくしょー。呼吸はゼーゼーを通り越してヒューヒュー言い始めているが走らなきゃ間に合わない。あと3分しかない。必死に走る。

 

また舗装道路に出た。応援の人が沢山いる。みんな「まだ間に合うぞ。急げ!走れ!」と叫んでいる。ただ霧が深くて30m先も見えない。応援の人に「ゴールどこ!?」と叫ぶと「霧の向こう!頑張れ!」と返事。そりゃ霧の向こうだろ、あと何メートルなんだよ!と思うが、あと何メートルだろうと走るしかない。激坂の舗装道路を必死にもがき走るとゴールゲートがいきなりあらわれ転がるようにゴールした。2時間18分を少し過ぎたところだった。あぶなかった。また五合目コースに出なくて済んでホッとした。そして体調悪いとは言え、ここまでギリギリの勝負になってしまう制限時間のキツさにビビった。ゴールゲート脇で酸欠状態でひっくり返っていると何人もの係の人が「大丈夫ですか?」と心配してくれるので申し訳なくて、ゼーゼー言いながら移動した。五合目ターミナルからバスに乗って帰るのだが、ターミナルまで地味に遠くて疲れた体にはシンドかった。こんなに歩かせないでくれよ!と思った。でも山頂コースはこれより速く走って更に山頂まで行かなければならない。絶対無理じゃね?と来年のことを考えて途方に暮れた。